WORKS事例紹介
新潟の豊かな松林に溶け込む、JX石油開発の新拠点
中条共創の森 オープンイノベーションラボ NOiL
Nakajo Open-innovation Lab : NOiL
「既知と未知」
そして「基地と道」
JX石油開発株式会社の「中条共創の森 オープンイノベーションラボ(Nakajo Open-innovation Lab : NOiL)」(新潟県胎内市)。
このラボは、世界各地の産油・産ガス国で石油・天然ガス開発プロジェクトを推進するJX石油開発が、国内に唯一保有する操業現場である中条油業所の敷地内に開設されました。革新的技術の実証プロジェクトの実施や、大学・環境先進企業・ベンチャー企業・行政等と協業するための施設として計画されました。
parkERsは、株式会社キー・オペレーション一級建築事務所と設計共同体を組織し、当施設の企画設計・建築計画からプロジェクトに参画。ワークショップを実施し本質的なニーズを探求する段階からスタートしました。
従来とは異なる新しい過ごし方を実現する新事務所のコンセプトとして導き出したのは「キチとミチ」。JX石油開発がこれまでに培ってきた技術や知識から、未知なるイノベーションの達成を目指す「既知」と「未知」、事業のベースとなるコアな機能を持つ「基地」として構成された各空間と、それらをつなぐオープンコミュニケーションの場としての「道」という2つの意味を込めています。
当施設では、屋根への太陽電池の設置、地中熱を利用した空調管理、風力発電など、ゼロエネルギーを目指した取り組みを進めており、ZEB(Net Zero Energy Building)認証、ドイツ発祥の省エネ認証「パッシブハウス」の取得を目指しています。
- DATA
- 弊社の業務内容:企画設計、コンセプト提案、インテリアデザイン、ランドスケープデザイン
「基地」に見立てた6つの分散された棟を、動線・コミュニケーションスペースとなる「道」がつなぎ、一つの建築物を構成しています。
周囲の松林に溶け込んでいくようなランドスケープを目指し、地域の植生を加味した植栽計画を行いました。
クロモジやメグスリノキなど、古くから暮らしの中で有用植物として利用されてきた樹種を中心に構成。特に中条周辺の林床にみられる、やわらかな美しい緑の葉をもつ常緑多年生植物・リョウメンシダは、「カグマ」とも呼ばれ、昔は地面から湧き出る石油を葉ですくって集めるために活用されていました。企業と地域のルーツに繋がるキープランツとして、エントランスや窓から見える重要なポイントにレイアウト。年月をかけて植物が根を張り豊かに育っていく姿を想像しながら、建物と一緒に育っていく余地を残しデザインしました。
また利用者が各棟を移動する際にふらりと外に出て、四季の風景を眺めながら向かうシーンをイメージし、散歩道のように有機的な曲線で動線を設けています。
建物はパビリオン棟、ミーティング棟、サービス棟、ソロワーク棟、マルチファンクション棟、ワークショップ棟から成り、執務スペースや会議室など新事務所に必要な機能がおさめられています。それらをつなぐ道の部分には、ラウンジカウンターやソファ、ベンチ等が点在し、目的を持たずとも気軽に交流できるオープンコミュニケーション活性化の仕掛けが施されています。
内装には木や土などの自然の素材をふんだんに用いて、外壁の材を引き込むように内壁にはグレイッシュな落ち着きのある木材を採用。木質化された建築と馴染むよう、家具は温かみや柔らかさを感じられるものをセレクトしました。屋内外でマテリアルを調和させることで内と外の境界を曖昧にし、より自然との距離が近い感覚を生み出します。
応接スペースの機能をもつパビリオン棟。地層のような壁面のアートを施し、企業の理念や事業を体現するつくりに。地層のようなアートは、中条周辺の実際の田んぼや山裾のラインから曲線を導き描いています。
ミーティング棟の、用途に応じた2つの会議室。
フォーマルな形式での利用に適した8名掛け大会議室。
カジュアルなミーティングを想定した6名掛け小会議室。可変性を意識しフレキシブルに使える仕様としました。台形のデスクを組み合わせて、利用目的に応じた形に変えることができます。
棟と棟をつなぐ道(中央通路)の中央に位置する、県内で掘削した土を天板部分に練り込んだバーカウンター。棟と棟をつなぐ動線上には溜まりのポイントがいくつも設けられており、用途を持たずとも偶発的に人が集まりインフォーマルコミュニケーションが生まれるきっかけに。
左官仕上げの天板は、しっとりとした手触りがポイント。ふとした時にカウンターに触れ、手のひらからも自然の風合いを体感していただけるような仕様としました。
ソロワーク棟。一人での作業を想定した、自然光が心地よく差し込む開放感のある執務スペース。モニターや電源を完備し、調光照明により各々が働きやすい環境に調整することができます。間接照明を仕込んだ梁も空間のアクセントに。
本棚には3つの扉があり、中には個室の作業スペースが。より一人で集中したい時に利用できる空間が隠されています。
また各棟を仕切る引き戸は全開放させることもでき、施設全体を通して一続きにつながっている印象に。松林と施設、棟と通路、さまざまな境界を溶け込ませ、仕切り切らないデザインとしました。
マルチファンクション棟。多目的スペースとして使えるカジュアルな交流の場。
地域とのつながりが生まれる場にしていきたいという当初の思いを受け、畳に上がり小上がりとして利用することはもちろん、畳の周りにスツールを配置し縁の部分をテーブルとして使ったり、畳をステージのように見立て大人数での集会にも対応するなど、多様な使い方を想定したつくりとしました。写真左手の壁面にはプロジェクター投影が可能。
小上がりの階段を登ると、周囲の豊かな松林を目の前に眺めることができるロフトがあります。松林本来の魅力が感じられる風景を見ながら、肩肘張らないカジュアルなコミュニケーションをとれる空間に。
棟を一直線上におさめず少しずつずらして配置することで、あいだにスペースが生まれ小庭を身近に眺められる構造に。屋内にいながらも自然の存在をしっかり感じ取れるような空間づくりとして、建築特有の形状を生かし、日常の中におのずと自然が側にある環境を提供します。
社員や遠方からのお客さまをおもてなしする足湯。足湯にゆっくり浸かりながら、風景を眺め、語らう...。心も体もほぐれるひとときをを演出します。
サイン計画では、施設の象徴的な風景である松林の松葉をモチーフにピクトグラムをデザインしました。施設の特徴や思いを細部からも伝えます。
ワークショップ棟。ボーリング調査など、現場での作業に関わるものを収納・保管できるバックヤードとして活用。